286. 申し出

フローラは、ぐっと拳を握ってミハイルに言う。

「身の程知らずなことをと、お笑いになるかもしれません。でも。

舞踏会で、私をパートナーにしていただけないでしょうか!」

思わず、エカテリーナは目をまんまるに見開いた。

フローラちゃん!

直球!

豪速球火の玉ストレート!

でもどうして?

フローラちゃん、どう見ても皇子ルートには入っていないと思うのに。

そしてフローラちゃんが皇子を見る目は、さながら果し合いを申し込んでいるかのような鋭さ。

といっても、私のこの手のことへの見識は全くアテにならないんですが……もう、自覚しましたよ。というか、諦めました。私、お姉さんなのに……なぜ……。

いや自省は後にするんだ自分。

ここで突然、ゲームの皇子ルートが息を吹き返した、と思うには状況があまりにもゲームとかけ離れている。直近の学園祭では最も活躍した人はフローラちゃんではなかったわけだし、他にもクリアできていないイベントがあったはず。

あ、今になって思ったけど、皇子がパートナーに申し込んでくれたのは、私が最も活躍した人に選ばれたから?

……でも、そんな風には思えない。目の前にいる皇子もフローラちゃんも、プログラミングされたキャラクターじゃない。条件ひとつで分岐するような、単純な存在ではないんだもの。

だいたいゲームのあれだって、ただ学園祭イベントだけ頑張っても駄目で、いろいろ好感度を上げておかなければパートナーになることはできなかったはず。

だから皇子が私に申し込んでくれたのは、今までの付き合いで親しくなれたからであって、条件分岐なんかじゃない。

な……なんかちょっと、親しくなりすぎた?でもでも、いろいろあったし〜〜〜。

なんで今、ふともも見られたこと思い出したのか自分!

そ、それはともかく。フローラちゃんがこんな直球を投げる理由を、ゲームとは無関係と仮定して考えると。

皇子が好きだからパートナーになりたいわけじゃ、ないよね?

フローラちゃんのことだから、自分のためじゃない。

「ええっと、フローラ。その、ありがたい申し出だけど、君はそれでいいの?」

鍛え上げられた社交的な笑顔に、ほんのりと困惑をにじませてミハイルが言う。

「これが一番、皆で舞踏会を楽しめる方法だと思うんです」

揺るぎない表情でフローラは答えた。

「ミハイル様にもご都合はおありだと思います。でも、ミハイル様が参加できないと、エカテリーナ様が舞踏会を楽しめません。ミハイル様と参加したい、たくさんの方たちも。学園祭であらためて解ったんです、ミハイル様とご一緒できるかどうかは、皆さんにとってとても大切なことなんだって」

その言葉にエカテリーナは、やっぱり、と思う。

フローラちゃん……私や皆のために申し出てくれたんだ。

きっと大変なことになるのに。

「私のような身分の者がミハイル様のパートナーなんて、おかしいと言われてしまうと思います」

うん。下手をしたら、いじめが再燃してしまう可能性もある。

「でもだからこそ、私なら、なんと言うか……数に入らないというか。私をパートナーにしたからといって、いろいろな方のいろいろな考えに、影響が出ることはないのではないかと。後々困るようなことが起きないで済むかもしれない……と思いました」

おおお。

それはつまり、高位貴族の令嬢が皇子のパートナーになると、エリザヴェータちゃんを未来の皇后にと望むユールマグナをはじめ、いろいろな政治権力の均衡に影響してしまうのではないか、ということだね。

その令嬢の家が他の有力貴族から睨まれてしまったり、あるいはその家がもしかしたらいけるかも!と野望を抱いて引っ掻き回したり、することは確かに起こり得る話。

未来の皇后があり得ない(ゲームではあり得たけど!)フローラちゃんがパートナーなら、そういうことにはならないだろうと……。

さすがフローラちゃん、賢い。ちょっと前まで庶民の娘さんだったのに、もう貴族の権力争いとかに配慮できるって、本当に頭が良くて聡い。

でもひとつ、これは言わねば!

「フローラ様は、学園で一番愛らしく思慮深いご令嬢ですわ!どれほどのお家柄の方であろうと、ご自身の価値により、フローラ様のほうがずっと輝いておられましてよ」

「エカテリーナ様」

手を取って力説するエカテリーナに、フローラは顔を赤らめて微笑んだ。

目の前で展開される美少女同士の美しい友情に、ミハイルは眩しそうなような、困っているような表情になる。

「だけどフローラ、君は、一緒に参加したい人はいないの?」

「私はエカテリーナ様とご一緒したいです」

迷いもよどみもなく、フローラは言い切った。

ミハイルは、違うそうじゃなく……という顔だが、エカテリーナは喜んでいる。

「ええ、わたくしもフローラ様と一緒に参加しとうございますわ。領地での宴でご一緒はいたしましたけれど、舞踏会はまた趣の違う、年齢の近い方々との気楽な催しになることでしょう。それを、フローラ様と共に、楽しみとうございます。

ですけれど……お申し出のことは、わたくし、心配ですわ」

フローラちゃんは私が守りますが、私がいまだに解っていない、貴族社会の闇みたいなものがアップを始めそうな気がして怖い。

「フローラ様なら、引く手あまたですわ。きっと多くの殿方から、お申し込みがありますのに」

「そんなことはありません。身分はわきまえています」

さらりとフローラは言い、エカテリーナはもどかしい思いで口をつぐんだ。うう、ヒロインとか言うわけにいかないし、フローラちゃんがモテモテに違いない理由をフローラちゃんに説明できない。

しかしフローラちゃんもわりと、恋愛関係は鈍いほうじゃないかしら。小説や漫画だと、ヒロインはそうなりがちな気がする。そりゃ、鈍くなくて自分への好意にすぐ気がついてしまったら、ストーリーがさっくり終わってしまうもんね。

他人事として思うエカテリーナである。

と、ミハイルがうなずいた。なにか、決意した表情で。

「わかった。フローラ、申し出ありがとう。その……」

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